【備忘録・感想】「超」入門 空気の研究

超 入門 空気の研究 社会

今日は『「超」入門 空気の研究』(鈴木博毅 2018年ダイヤモンド社)という本について、印象に残った内容や感想をまとめます。


この「空気」とは日本人が気にする「空気を読む」の「空気」です。なぜ今回改めてこの本をまとめようと思ったのかというと、新型コロナウイルス感染対策がまさに「空気」を前提にしている、と感じたからです。現在、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、一部都府県で緊急事態宣言が出され、「外出自粛の要請」や「休業の要請」が行われています。諸外国と違い、日本では法律的な強制力はなく、行政が国民に自粛の要請を行い、国民がそれに応じて行動するという形をとっています。それが日本型のロックダウンです。お願いの「空気」を感じ取って皆さん行動しましょうという感じです。クルーズ船対応からオリンピックの延期、その後の自粛要請、感染者の拡大や検査数の不足も、なんだか作り出された「空気」の存在を感じてしまいます。
ですが、それが日本です。今は一人一人ができることをやるしかありません。

『「超」入門 空気の研究』 とは?

今も昔も変わらない日本人を縛る妖怪の正体を解明した山本七平氏の名著『「空気」の研究』を27のポイント、7つの視点からダイジェストで読む。「何かの力」に操られず、思考の自由を取り戻すには?

『「超」入門 空気の研究』(鈴木博毅 2018年ダイヤモンド社)  カバー部分より

この本の大元は1977年に出版された山本七平氏の『「空気」の研究』 です。第二次世界大戦における失敗など、これまでの日本の歴史から日本人特有の思考や組織の問題点について、「空気」に着目して書かれた名著です。

『Amazon( https://www.amazon.co.jp/)』より
この頃から「空気」という概念が存在していたことにびっくりです。

『「超」入門 空気の研究』はこの『「空気」の研究』をダイジェスト版にしてわかりやすくしたものです。図が多用されている、ポイントの部分が強調されている、各項に必ずまとめがついているなど、非常に読みやすい構成になっています。また、『「空気」の研究』が出版されたのは40年以上前ですので、引用される事柄が少々古いのですが、『「超」入門 空気の研究』は現代の事象も織り交ぜながら解説してくれています。
お恥ずかしい話、原典に当たらなければいけないのは承知しているのですが、山本七平氏の『「空気」の研究』については読めていません・・・

それでは『「超」入門 空気の研究』について、特に印象に残った箇所と感想を記していきます。

以下、赤枠に囲まれている部分は 『「超」入門 空気の研究』 の内容で印象に残った部分を個人的にまとめたものとなります。

「空気」とは何か

  • 「空気」とは共同体におけるある種の「前提」
  • 「空気」を共有するように「同調圧力」が生まれる
  • 「空気」に従わないものは叩かれる
  • 「空気」はその前提に反する現実を隠す

まさに「空気を読め」はこれですね。以前、「空気を読めない人」を示すKYという言葉が流行ったこともありました。社会、学校や職場などで確立された明文化されていないルールや前提を理解して従って、ということだと思います。
今だと、外出時に誰もマスクをしろとは言わないが、マスクをしてないと周りの人に白い目で見られるというパターン。実際はマスク売ってないからつけられないのに・・・

日本人は集団において「空気」を前提にした「物の見方」に染まりやすい

  • 「空気」を起点に作られた集団の「物の見方」を「情況」と言い、その集団にいる人々の物の見方も「情況」に拘束されてしまう
  • 特にお上のお墨付きがあると集団の倫理観は「情況」に支配されてしまう
  • いじめは、クラスにおいて加害者は被害者にどこまでいじめを行ってよいか、担任教師や他の生徒の顔色を伺い、前提となる「空気」を作り出す。教師が「空気」を正しく支配しないと、いじめを肯定する「情況」が集団の倫理となってしまう。
  • ネットリンチも同様の構造を持つ

いじめの話はなるほどと思いました。
2月の後半から始まった「自粛ムード」は、まさにこの情況倫理ではないでしょうか。まだ感染者数がそこまで多くなかった時期は、周囲の批判を恐れ、自粛という情況に流されて外出をやめた方もたくさんいると思います。諸外国は強制的な外出禁止ですが、ムードだけである程度自発的に自粛できるのはまさに日本ならではであり、この社会全体に「情況」が働いています。
インターネットでは、現在は専ら政権の対応への不満が目立ちます。匿名性も加わり、SNSで政府を一方的に非難しても、個人が攻撃を受けることはありません。本書によると、それは非難していい相手だとお墨付きを得るのと同等であり、批判は集団の倫理となり、多くの人が声をあげているということになります。もちろん政権批判だけでなく、それに対する政権擁護者も同様です。非常事態で極限の状態になり、より多くの人が情況倫理に支配されているように感じます。過剰な炎上がしょっちゅう発生するのはインターネット時代ならではの新たな社会問題だと思います。

日本人は「常識」に縛られる

  • 私達は願望的な「空気」に対して、「常識的に考えて」という視点で「水を差す
    (例えば、難関校を目指す受験生に成績が伴わないから無理だ、と周囲が水を差す)
  • 日本は伝統的に外来文明を溶解吸収する翻訳文化本質は変わっていないのに変わったと思い込み、外来のものを自らの色に染める。これは外来の新しいものを受け入れたいという願望的な「空気」に対し、生活はすぐには一変できないという通常性の「水」が差された結果。歴史的には仏教、ひらがな、儒教と科挙など。

新型コロナウイルス対策においても、国が経済活動の落ち込みを懸念するあまり、東京都と休業要請の調整がすぐにつかなかったという事態がありました。休業補償の問題ももちろんあるのですが、国が都の対応に水を差したという点は、国がコロナ禍以前の常識にとらわれているという表れでもあるのかもしれません。欧米に比べて全般的に対策の判断や決定が遅いのも、この日本特有の「空気」「水」が文化的背景にあるのでしょうか。

また、後半部分の論調が意外でした。私は外来の文化を日本オリジナルに染めることは日本の良いところでもあると思っていたのですが、マイナスのイメージで書かれています。確かに外からの文化をそのまま受け入れないというのは、それ以前の文化や伝統を脱することができない閉鎖性を感じますが、元来島国という立地もあり、文化の受容が巧みだったからこそ日本は近代化や戦後を生き抜いてきたような気がします。一方で、欧米からすると日本はガラパゴス化していると言われるとおり、世界的な基準から外れているもの多く、このままだと、バブル経済以前のような成長は厳しいかもしれません。このことについては、次にも触れられていました。

日本の社会や組織における「空気」の支配

  • 日本の社会や組織において、私たちは「空気」を前提にした「情況倫理」という「虚構」に支配されている
  • 体制側、上層部など支配側は、新たな事実が発生すると、支配側が不利にならないように、これまでの前提である「空気」に一致させる解釈で事実をマスコミを通じて大々的に公表し、「虚構」をつくる。それを受け、皆が同じ物の見方を共有すれば、それが正しい方向だと考え、人々はその「虚構」に従って行動する。
  • 「虚構」に対して反論・批判をする者を、「虚構」に依存した人は叩く
  • 日本では多数決の際、賛成多数の側が「空気」を支配するのに対し、中東や西欧では、少数意見(マイナス面)を無視せず、確実に対策を行う
  • 真実が内か外にあるか、どちらに「空気」が醸成されるかで悲劇か飛躍の分岐点となる。近代化、戦時中、戦後といった歴史を考えても、外を知ることが飛躍や成功の足がかりとなるのは明らか。

現在もコロナに関しては連日マスコミにたくさんの専門家が出演しており、その部分はこれまでの虚構づくりと変わっていないかもしれません。とは言っても、『「空気」の研究』は1977年に出版された名著ですので、現代とは状況が異なります。昔はマスメディアの力が大きく、虚構に従わざるを得ない状況でしたが、現在は個人で情報収集・発信ができるインターネットの時代です。SNSで多くの人が行政の政策への批判、不満を述べています。少し前はマスコミの情報を頼りに、皆で作られた物の見方に従わざるを得ない状況でしたが、現在はインターネットを通じて個々人が自由に意見を述べることができるようになっています。日本に限らないかもしれませんが、これまでも体制に批判的なサイレントマジョリティは存在していて、ようやく声をあげられるようになったのだと思います。 声を上げるだけではなく、行動までつながれば、今後日本社会は変わっていくかもしれません。 ただし、この場にも情況倫理が働き、集団での誹謗中傷が問題となっているのは先ほどのとおりです。

また、いわゆる日本型組織の企業や団体等においては、自分自身もそうですが、まだまだ「虚構」から脱するのは難しいと思います。会社の会議で前提を覆すのは難しいですし、誰にも相談できずパワハラ上司に悩む社員の話はたくさん聞きます。 企業内部はオープンではなく、相当の覚悟がないと「虚構」を批判することは厳しいです。 日本型組織から脱却し、グローバルスタンダードを取り入れる企業も増えているように、そろそろ組織の在り方についても変えていかなければならないのだと思います。日本型組織の良いところもありますが、まさに外の世界を知る必要があります。

空気を打破するために必要なことは何か

  • 日本人の根本思想は人間関係や共同体との関係性を絶対視する日本教
  • この根本主義と世界に対する新しい現状認識の組み合わせが独自の変革を生み出す
  • 「空気」いう前提を外す思考力がイノベーションを引き起こす
  • 今こそ古い時代の空気を打破し、日本人の知性を回復し、豊かな未来を手に入れよう

日本元来の考え方と外への視点を組み合わせ、変革を起こし、日本特有の「空気」を打破しようという話で終わります。割とありきたりな結論になっています。
まずは現在の「空気」の中で、「情況」に流されるのではなく、自分自身でできることを考え、行動することです。そしてコロナ禍の先はどんな未来になっているでしょうか・・・。

最後に

今回、新型コロナウイルスと人類が戦っている中で、日本の感染対策や人々の行動について、まさに「空気」が関係しているのではないかと思い、印象に残ったことをまとめてみました。 私は普段の社会生活において息苦しさや違和感を感じ、この本を購入しました。日本人論は以前に「菊と刀」を読んだことがあったのですが、今回は『「空気」の研究』のダイジェスト版なので非常に読みやすく、日本人特有の思考について、改めて整理することができました。私はこれまで旅行以外に海外との接点がないので、海外滞在などで外の視点を持つと客観的にもっと見えてくるものがあるのだと思います。

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